ヴェルディ紹介・・1813.10.10レ・ロンコーレ(パルマ)~1901.1.27ミラノ


史上最大のオペラ作家 全26曲の作品中10数曲は、現在も世界のオペラ・ハウスで上演されている 生地レ・ロンコーレはパルマ県の町ブッセートの郊外3㎞にある寒村で、小さな宿屋兼食料品店を営む、父カルロ・ジュゼッペの長男として生まれた。10歳のときブッセートに移り、町の有力者で自らもファゴットをたしなむアントニオ・バレッツィに才能を認められ、その助力でブッセート・フィルハーモニーの指揮者プロウェジの教えを受ける。1832年ミラノ音楽院への入学を希望したが不許可、しかし個人的に音楽院教授に師事し勉学を続けた。1836年恩人バレッツィの娘マルゲリータと結婚、1男1女を得るがともに薄命、1840年には妻マルゲリータも脳膜炎で失う。家族をみな亡くして失意のヴェルディを支えたのはスカラ座支配人メレッリの友情とプリマ・ドンナのジュゼッピーナの愛情だった、おかげで、1842年の第3作《ナブッコ》は大成功をおさめた。劇的な音楽と力強い合唱は当時オーストリアの圧政下に苦しんでいたミラノの人々に強い感銘を与え、特に合唱《行けわが思いよ、金の翼にのって》は第2のイタリア国家とよばれるほど愛唱され、後のはヴェルディの葬儀でも歌われた。1859年ジュゼッピーナと正式に結婚、同年国会議員になり65年まで続いた。1893年《フォルスタッフ》後、間もなくジュゼッピーナが没し、落胆したヴェルディ自身も1901年1月旅先のミラノのホテルで世を去った。享年87歳

 

ヴェルディ・オペラの特色

  • 声と歌が優先した従来のベル・カント・オペラに対し、国・民族・社会・戦い・文学の劇的要素といった、やや重厚な題材を好んだ。
  • 音楽的には、男声(バリトン)を重視し、ドラマの中心に多くおいた。
  • 従来ソリストの陰にあった合唱やオーケストラを正面に据えて、単なる背後の音楽ではなく、それ自体がドラマを語る表現能力を開拓した。
  • ドラマ的には父娘の愛の高さや深さ、父と娘の運命のつながりを様々な形でテーマにした。『ナブッコ』『リゴッレト』『アイーダ』『シモン・ボッカネグラ』『ルイザ・ミラー』『フォルスタッフ』など・・・父の息子の組み合わせは『椿姫』『ドン・カルロ』ぐらいしかない。

『リゴレット』(3幕) Rigoletto  イタリア語台本ピアーヴェ

V・ユゴーの戯曲(逸楽の王)に基づく 1850-51年作曲 1851年3月11日 ヴェネツィア:フェニーチェ座で初演 演奏時間:約2時間  概要:宮廷のおかかえ道化師リゴレット(Br)は主人であるマントヴァ公爵(T)に、生きがいにしてきたひとり娘ジルダ(S)を凌辱され、殺し屋スパラフチーレ(B)を雇って復讐を果たそうとする。しかし殺し屋の妹マッダレーナ(Ms)も公爵に口説き落され、ジルダがその身代わりとなって殺されてしまう。川に捨てるべく受け取った殺人者からの袋を開けて驚くリゴレット、瀕死の娘の姿に絶叫する。

一口メモ:ヴェルディ26作品のオペラのうち16番目に当たり、次の《トロヴァトーレ》、18番目の《椿姫》と合わせて中期の三大傑作と言われる  作品のテーマは因果応報、第1幕で他人の不幸をあざ笑ったリゴレットはフィナーレで愛する娘を失って絶望の叫びをあげる 原題は(呪いLa maledizione)で、舞台がパリでフランソア1世の放蕩を題材としていたが、イタリア当局の検閲により改題し、設定も16世紀のマントヴァに変更された。美しい旋律、劇的な迫力に富み、ヴェルディの名を世に知らしめた中期の傑作。前奏曲⇒オペラ全体を短い音楽の中に見事に凝縮した素晴らしい導入曲 リゴレットと娘ジルダの2つの二重唱《娘よお父さま》1幕、《神に祈りを捧げているとき》2幕、父親の娘に対する愛情が切々と伝わってくる リゴレットのアリア《悪魔め鬼め》2幕⇒聴くものは誰しも胸を打たれるヴェルディの最高傑作のひとつ マントヴァ公爵のアリア《女心の歌》3幕⇒名曲中の名曲、ヴェルディ自身、相当な自信があったらしく事前に知られないように本番直前まで歌う本人にさえ伏せられたままだったとか。


『イル・トロヴァトーレ』(4幕) Il trovatore   イタリア語台本カンマラーノ

スペインの作家グティエレスの戯曲に基づく 1852年作曲 1853年1月19日ローマ:アポロ劇場で初演 演奏時間:約2時間   概要:舞台は15世紀初頭のスペイン ジプシーの一群を率いる老婆アズチェーナ(Ms)の宮廷にたいする復讐に、宮廷の女官レオノーラ(S)の恋人で吟遊詩人(トゥルバドゥール)のマンリーコ(T)と、彼の恋敵ルーナ伯爵(Br)との戦いがからむ。レオノーラはマンリーコを助けるために伯爵の求愛に応じると見せかけて毒薬を飲んで死に、さらに伯爵は、アズチェーナの子とされていたマンリーコを実の弟と知らずに処刑してしまう。

一口メモ:劇的迫力に富むヴェルディ中期の傑作 人気のアリアはアズチェーナの《炎は燃えて》2幕 レオノーラの《思いはバラ色の翼にのって》4幕・・など この戦慄的ドラマはヴェルディ自身がカンマラーノに台本にしてはどうかと提案、注文に拘束されず作曲に打ち込める最初の機会だった  突っ込みどころ満載の台本(15世紀に吟遊詩人?登場人物の唐突な言動、子供の取り違えが起こりすぎ・・など荒唐無稽)であるのに、ヴェルディは「このオペラには死者がたくさん出て悲しすぎるといわれます。でも、人生では誰もが最終的に死ぬのではないでしょうか。」と述べている 一見マンリーコとレオノーラの悲恋がテーマのように見えるものの、実は不幸を背負ったジプシー女の復讐物語がテーマ筋書きや登場人物ではなく、火山の爆発のような迫力ある音楽、情熱的なアリアが、このオペラの魅力


『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』(3幕) La traviata  イタリア語台本ピアーヴェ

アレクサンデル・デュマ(子)の小説[椿姫]に基づく 1853年作曲 同年3月6日ヴェネツィア:フェニーチェ座で初演 演奏時間:約2時間10分  概要:時は1850年頃、あるパーティで純情な青年アルフレード(T)と知り合い、初めて真実の愛に目覚めた、パリ社交界の華、高級娼婦ヴィオレッタ(S)は、彼とパリ郊外で暮らし始めるが、彼の父親ジェルモン(Br)に

、同棲をやめて身を引くよう言いわたされる。別れて、しばらく後、アルフレードが再び彼女の所に戻ってきたとき、ヴィオレッタは結核で死んでゆく。

一口メモ:初演はヒロイン役の歌手があまりにも太っていた(肺病なのに)ことなどで失敗に終わった、しかしヴェルディが「この作品はやがて一世を風靡するだろう」と予言したとおり、世界中でもっとも愛されるオペラとなった。「リゴレット」⇒道化師、「トロヴァトーレ」⇒ジプシーに続いて、身分的に抑圧された人間、「椿姫」⇒娼婦を主人公にした悲劇で彼の作品中珍しく血を見ない抒情的な作品 日本でこの作品を《椿姫》と呼んでいるのは原作のタイトルからで(この呼び方を好むファンも多い)、ヴェルディとピアーヴェが付けたタイトル《ラ・トラヴィアータ=道を外した女》と呼ぶべき 前奏曲⇒ヴェルディの書いた前奏曲の中で最も美しく、説得力に富んだ名曲で特に弦楽四重奏で奏される冒頭の部分は傑出している 二重唱《乾杯の歌》1幕⇒聴衆の心を一気にパリの社交界に運ぶ名曲 ヴィオレッタがアルフレードに別れを告げる《愛して、アルフレード》2幕⇒このオペラの骨格をなすメロディに乗った前半の最大の見せ場 ジェルモンのアリア《プロヴァンスの海と陸》2幕⇒父親の息子への熱い思いが切々と伝わってくる名曲 


『シモン・ボッカネグラ』(3幕) Simon Boccanegra   イタリア語台本ピアーヴェ 改訂はボーイト

1856-57年作曲 1857年3月12日 ヴェネツィア:フェニーチェ座で初演 大幅改訂版の初演は1859年ミラノ・スカラ座 演奏時間:約2時間  概要:舞台は14世紀半ばのジェノヴァ となる。平民派の統領シモン・ボッカネグラ(Br)は貴族派の前統領フィエスコ(B)の娘との間に生まれたアメーリア(S)と25年ぶりに再会する。アメーリアは貴族派の青年ガブリエーレ(T)と愛し合っているのだが、シモンは両派の和解を思い2人の結婚を許す。しかしシモンは平民派パオロ(Br)によって毒殺され、ガブリエレエーレが新総督となる。

一口メモ:前作の『椿姫』は大成功だったのに、今回の初演は失敗 ヴェルディはヴェネツィアのためには今後一切オペラを書くまいと決意したとか・・・あまりにも陰気すぎる題材がヴェネツィアの人々には不快だった。ミラノ・スカラ座でも失敗に終わった。ヴェルディは手紙に「聴衆の態度の悪さ・・私は驚きません。かれらは騒ぎを起こせれば、いつだって幸せなんです。私は聴衆を糾弾しようとは思いません。その厳しさを認め、口笛のやじを甘受しましょう。彼らは三リラで口笛でやじり飛ばしたり、あるいは拍手喝采する権利を買うのです。『ボッカネグラ』は私の他のオペラと比べて劣ったものではありません。より完璧な上演と、聴衆がしっかりと耳を傾けることを求めているのです。」と書いている。アメーリア《このほの暗い夜明けに》、ガブリエーレ《怒りの炎を》、フィエスコ《哀れなる父》など主な登場人物に有名なアリアが与えられている


『仮面舞踏会』(3幕) Un ballo in maschera  イタリア語台本ソンマ

スクリーブの脚本《グスタヴ3世》に基づく 1857-58作曲 1859年2月17日ローマ:アポロ劇場で初演 演奏時間:約2時間10分  概要:舞台は17世紀、英国の北米ボストン植民地 総督リッカルド(T)[18世紀、スウェーデン国王グスタヴ3世の暗殺実話を扱っているため、当時の検閲のため場所をアメリカ、国王をボストン総督に改めてある]は、親友であり部下であるレナート(Br)の妻アメーリア(S)を愛している。レナートはやがてそれを知って激昂し、リッカルドに対し陰謀を企てる一味に加わり、仮面舞踏会で復讐するが、寛大にも総督は一同に彼の罪を許すよう懇願しながら死んでゆく。小姓オスカル(S)を登場させ、悲劇のなかに喜劇的要素をもりこみ、また不気味な占女ウルリカ(A)により、明暗をいっそう際立たせている。

一口メモ: 原作はスウェーデン国王グスタフ3世暗殺事件を素材としているが、歌劇上演に際し、国王暗殺という政治的理由のため問題となり、物語の舞台をアメリカに改編した・・という経緯がある。しかし、最近はオリジナルに戻した形で上演されることが多い 初演での成功はヴェルディがまるで予想しなかった展開をみせた、[VERDI]の綴りが、イタリア国王ヴィットリオ・エマヌエーレ[Vittorio Emanuele Re d'Italiaの頭文字を繋げるとVERDIになる]に体現されている自由イタリアを表現する象徴として使われた。


『ドン・カルロ』(4幕) Don Carlo   フランス語台本をギスランツォーニがイタリア語に改訂

シラーの戯曲に基づく パリ開催の第2回万博のために1865-66作曲 フランス語版の初演:1867年3月11日パリ・オペラ座 イタリア語版初演:1884年ミラノ・スカラ座 演奏時間:約3時間  概要:1560年頃、スペインの王子ドン・カルロ(T)の婚約者エリザベッタ(フランス王アンリ2世の娘)(S)が、政治的な理由でカルロの父親フィリッポ2世:フェリペ2世(B)と結婚することとなり、そこから起こる不幸と慟哭が当時のカトリック・スペインに反抗する新教徒のフランドルの紛争をからみ合わせて劇的に描かれる。物語は彼ら3人に、カルロに恋するエボリ公女(Ms)、王の臣下でありカルロの友人でもあるポーザ公爵ロドリーゴ(Br)、宗教裁判所長(B)それぞれの思惑をからめて展開される。

一口メモ:重厚な管弦楽で描かれる重厚な歴史劇 《ひとり寂しく眠ろう》エリザベッタのアリア《世のむなしさを知る神よ》、カルロとロドリーゴの二重唱《共に生き共に死ぬ》、フィリッポのアリア《彼女は私を愛したことがない》などが有名 悲劇的な雰囲気を盛り上げる 初演にはナポレオン3世、ユージェニー皇妃、政府関係者が臨席してヴェルディに敬意を表した しかし初演の評判は悪く、

フランスの作曲家たちの敵意や聖職者の登場を好まないカトリックのグループや皇妃の憤り、マスコミ界の攻撃があった ヴェルディは初演の翌日にはもうイタリアに向けて旅立った ヴェルディはその後、パリのためにオペラを書くことはなかった


『アイーダ』(4幕) Aida イタリア語台本ギスランツォーニ

1870年作曲 1871年12月24日カイロで初演 演奏時間:約2時間15分

概要:古代エジプトとエティオピア両国の争いを背景に、エジプト王女アムネリス(Ms)の恋する将軍ラダメス(T)と、敵国エティオピアの王アモナズロ(Br)の娘アイーダとの悲恋、そして各人の愛国心や復讐心、嫉妬や裏切りなどをおり交ぜて展開する一大スペクタクル劇。軍の機密をもらしたラダメスは祭司長ランフィス(B)らに反逆者として捕えられ、アイーダと共に地下牢で永遠の愛を誓いながら死んでゆく。

一口メモ:1869年スエズ運河の開通を記念してカイロに新築された歌劇場のこけら落としのために書かれた祝典用オペラ 初演の少し前、1871年11月1日ヴァーグナーの『ローエングリン』がボローニャで上演され大成功だった(イタリア人が初めてヴァーグナーの音楽を知った)こともあり、ヴェルディはドイツ・オペラと同じくらいの価値がイタリア・オペラにも認められるのかどうか、気になっていた カイロでの初演は大成功、1872年2月8日ヴェルディ自身の演出によってミラノ・スカラ座の舞台にかけられた、幕が下りると他に例がないほど拍手喝采が起こり、32回もカーテンコールが続いた。音楽の中で聞こえるエジプト風のメロディはその国の民謡や音階を採用することなくすべてヴェルディ自身のイマジネーションからの創作によっている(この点についてはプッチーニと対照的) 戦争を背景にしているが戦いの場面はなく、テーマはラダメスをめぐるアムネリスとアイーダの三角関係、女性の闘争のドラマ ラダメスのアリア《清きアイーダ》1幕⇒高音のシが3度も出て来るため、歌手たちの間ではテノール泣かせの難曲と言われている アイーダのアリア《勝って帰れ》1幕⇒メロディの美しさと劇的な表現が絡み合う最高の1曲《凱旋の大行進曲》2幕⇒華麗な音楽と壮大なスケール、異国調のバレーなど変化に富んだ舞台が展開 アイーダとラダメスの二重唱《運命の岩が閉ざされた》⇒フィナーレは劇的な音楽で終わるのがヴェルディの特色だが、この作品は例外的に静かな清らかな音楽で2人の魂が天に昇っていくさまが描かれている